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作品を通して世の中を見る! 美術史は何をやっている学問か

「美術」という言葉から、あなたはどんなことを思い浮かべますか?

絵だったり彫刻だったり、はたまた中学校の美術の時間を思い浮かべるでしょうか。

自分が創作しているところを想像する人もいれば、誰かが作った作品を想像する人もいるでしょうね。

 

では、「美術史」という言葉からあなたは何を思い浮かべますか?

「誰それがいついつにこの作品を作ったとか、そういうことを覚える勉強?」という人もいれば、「美術の流れを追う学問でなんか敷居が高そう」という人もいるかと思います。

 

美術史。

読んで字のごとく美術の歴史という事ですが、この学問はいったい何をやっているんでしょうか。

美術の歴史なんか勉強して何が分かるのでしょう?

今回はそんな疑問から始まる、美術史(西洋美術史)についての記事になります。

 

以下、もくじ~。

 

 

1.昔々、絵画はメッセージを伝えるメインツールだった!

 

現代の人々にとってメッセージを伝えるメインツールというのは言葉、特に文字だと思います。

映像とか写真とか音声とか色々あるのになんで文字なのって思うかもしれませんが、わたしたちの身の回りには文字がもの凄く溢れています。

 

新聞に本、街中の看板や広告、SNSでの友達の投稿などなど。

挙げていけばキリがありません。

テレビとかYouTube動画ですら文字というのは顔を出しています。

文字こそ、わたしたちの意志伝達の主流なんだということです。

 

でも昔はそうではありませんでした。

「え? 昔の人だって言葉話してるじゃん」という突っ込みにはこう返しましょう。

「確かに言葉は話していたけど、今みたいに色んな人が文字を読み書きしていた訳じゃないんだよ」って。

 

今の時代では世界中の多くの人が教育を受け、それぞれの国の言語を読み書きできるようになっています。

できる現代人なんかは複数の言葉を話したり読んだり書いたりしています。

わたしはできない現代人なので、そういう人が羨ましい限りです。

 

しかし、昔の社会は今よりもぐんと識字率が低かったのです。

文字の読み書きができるのは王侯貴族や裕福な商人といった、いわゆる上流階級の人達だけ。

 

そんな世の中なので、不特定多数の一般市民に何か伝えたいことがあった時には文字ではダメでした。

だから、文字なんか読めなくても、もっと直接的に理解できるような物がメッセージの伝達手段として使われました。

そう。それが絵画です。

 

たくさんの人に伝えたいことって何やねん、という疑問が湧いて洗濯機も喉を通らない人のために説明しますと、昔の人々が多くの一般市民に伝えていたメッセージの大部分は宗教的なメッセージになります。

 

西洋美術においてはキリスト教です。

キリスト教の教えを広く人々に伝え、信仰を保つためにも、絵画を通して聖書の内容を伝える必要があったのです。

そんなわけで、西洋美術とキリスト教教会との間には深い結びつきがあります。

 

 

2.美術と言っても色んな学問分野があるんですよ

 

絵にはメッセージが込められています。

その作品が生み出された当時の人々の考え方や世界観が秘められているのです。

 

だから美術作品を研究する美術史には、美術作品を通して「人間と人間社会を知る」という側面があります。

つまり、美術史というのは哲学的側面もあるということです。

「人間と人間社会を知る」というのはまさに、わたしたちを取り巻く世界についての探究という事に他ならないからです。

 

ただ、「美術史」というのは歴史学的側面が強い分野です。

哲学的側面の強い分野は「美学」と呼ばれ、別の学問として分かれています。

そしてこの「美術史」と「美学」とを合わせた学問領域を「芸術学」と呼んでいます。

 

美術系の学問は他にもたくさんありますが、ここではさらに2つ、美術史に関係する重要な学問を紹介します。

 

一つは図像学(イコノグラフィー)」です。

先ほどから、絵にはメッセージがあるという話をしてきました。

図像学というのは、「絵に描かれたこのものは、これこれこういった意味を持っている」という事、「こういった意味を示すために、このような図像が描かれた」という事を扱う学問です。

美術作品からメッセージを読み取るのに図像学は超重要なのです。

 

もう一つは「図像解釈学(イコノロジー)」です。

図像解釈学というのは、図像を分析し構造を知る学問のことです。

もっとざっくり言えば、「その絵がなぜ描かれたのか」ということを考える学問です。

 

 

3.視覚言語としての絵~図像(記号)と意味の関係について~

 

あるメッセージが込められている絵というものは、言い換えれば、視覚言語なのです。

普通の言語は、言葉だったり文字だったりで情報の伝達を行います。

一方、視覚言語というのは、ある記号に特定の意味を持たせ、その記号を見るということだけで情報の伝達を行います。

 

絵画には様々な図像が描かれています。

この図像は記号の一種に他なりません。

だから絵のメッセージを読むというのは、記号を読んでその意味を理解するということになります。

 

では、記号とそれが示す意味とはどんな関係があるのでしょうか。

「1+2=3」という具体例を挙げて考えていきましょー。

 

この例を見て、全く意味が分からないという人はいないと思います。

かつて小学生だった人なら誰でも理解できる、とっても簡単な数式ですよね!

 

なんで苦も無く理解できたのかと言えば、わたしたちが数式の記号の意味を理解しているからです。

「A+B」とは、「AとBを足し合わせる」ということですよね。

それから「A=B」とは、「AとBとが等しい」ということですね。

このように、わたしたちは「+」や「=」の意味を知っているからこそ、「1+2=3」という数式が正しいということを理解できるのです。

 

もしこの数式が「1$2※3」とかだったらどうですか?

全く意味が分からないですよね?

「1$2」が「1と2を足し合わせる」ということを意味していたとしても、この「$」という記号の意味をわたしやあなたが知っていなければ理解できないですよね。

同様に、「※」という記号が「=」と同じ意味だったとしても、それをわたしやあなたが知っていなければ理解なんてできません。

 

つまり、記号を使ったコミュニケーションというものは、情報の送り手と受け手の間で「この記号はこういった意味を表わしますよ」という約束事を共有していないと成立しないってことなんです。

 

さっきの例で言えば、送り手と受け手の間で「+は左右のものを足し合わせるという意味、=は左右のものが等しいという意味を表わしますよ」っていう約束事を共有しているからこそ、「1+2=3」という数式の意味が理解できていたのです。

この約束事のことを「コード」と呼びます。

 

コードは、時代によって、そして社会によって変わってきます。

たとえば、「鳩」というのは昔はただ単に動物としての「ハト」を意味していただけでしたが、時代が下ると「平和」ということも意味するようになりました。

このようにコードは変化していくものなので、昔のコードというのは失われてしまう事も多々あります。

 

その結果、美術作品に込められているコードについても分かっていない事だらけです。

美術史は美術作品を通して人間や人間社会を探究する学問なので、絵のメッセージを読み取らなければなりません。

そのためにはまず、失われてしまったコードをあの手この手を使って発掘しなくてはいけないことになります。

 

このコードの再発掘作業を担っているのが図像学です。

だから図像学は美術史にとって超重要なんですね~。

 

 

4.四季のあとがき

 

美術館に行くことが趣味の一つなわたしですが、美術史っていうのがどんなことをしている学問なのかあんまり分かっていませんでした。

でも、今回は美術史についての本を読んで、美術史ってのが美術作品を通して人間について考察する学問なんだということを知って、なんだか親近感を覚えました。

 

なるほど!

美術史っていうのは単に作品の経歴とかを学ぶようなつまらない学問じゃなくって、哲学とかにも通じる面白そうな学問なんだって。

 

特に図像学とか図像解釈学に詳しくなると、より一層美術館巡りが楽しくなりそうですね!

 

以上、折々四季でした。

それでは、また~。

 

 

参考文献

・『西洋美術史入門』 池上英洋 ちくまプリマー新書