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差別ってやつを経済学の視点から見てみた

人と違う事をしているだけで変な目で見られてしまう人。

LGBTというだけで偏見を持たれてしまう人。

いじめられ、自ら命を絶ってしまう人。

 

差別や偏見って、自分にはあんまり関係ないかもって思いがちです。

日本にいると人種差別を意識することも無いですし。

でも上に挙げたように、よくよく考えてみると差別や偏見って結構身の回りに溢れていることなんですよね。

自分の中に差別意識とか偏見があるってことを自覚していない人も多そうです。

 

だから、差別や偏見ってものについて、ちゃんと知識をつける事はとても大切だと思っています。

今回はそんな差別とか偏見について、経済学の視点から見ていこうと思います。

 

以下、もくじ~。

 

 

1.市場原理は差別をなくすって本当?

 

市場の原理を考えれば差別なんてものは無くなっていくはずだ。

それは差別する経営者が市場で生き残っていけないからだ。

 

こんな主張をしたのはアメリカの経済学者ゲーリー・ベッカーです。

彼が考えていた差別というのは人種差別のことです。

つまり、「黒人と白人の二人の就職希望者がいて、どちらも生産性が同じであるとしても経営者は白人ばかりを雇う」というような差別のことです。

このような差別は市場原理によって無くなるはずだと彼は主張したんですね。

 

彼の考えを詳細にみる前に、まず市場原理について確認しておきましょー。

市場原理とは、

市場がさまざまな過不足やアンバランスを自ら調整し最適化する仕組みや機能。商品の価格、需要と供給、労働市場などさまざまな場面で、多くの市場参加者が自己利益を追求することで働くとされる。

 

[コトバンクより引用

https://kotobank.jp/word/%E5%B8%82%E5%A0%B4%E5%8E%9F%E7%90%86-519444]

一言で言うと、市場では自己利益が追求されるってことです。

 

では、この市場原理がどうして差別をなくすことにつながるのか?

それを確認していきましょう。

 

まず、黒人に対する偏見が市場にあるとします。

これは白人と黒人とで市場における需要に違いがあるということを意味します。

需要に差があることは彼らの給与にも影響を与えます。

つまり、黒人の人件費の方が白人の人件費よりも安いという状況になります。

 

この時、黒人に偏見を持つ経営者の場合は、たとえ彼らが白人と同じ生産性を誇るとしても、黒人よりも高くつく白人の方を雇います。

そりゃあ黒人に対して差別意識持ってるから彼らを雇おうとはしないでしょうね。

 

反対に、黒人に偏見を持っていない経営者は黒人を雇うでしょう。

だって彼らの生産性は白人と変わらないにもかかわらず、彼らの方がコストが安いんですから。

安い方を選ぶのは理に適っています。

 

ここで、先程の市場原理を考えてみましょう。

市場原理というのは、市場では自己利益を追求されること、でしたね?

これは自己利益を追求しないものは淘汰されていくということを内に含んでいます。

利益を追求しないと生き残れませんからね。

 

では、黒人に偏見を持つ経営者と偏見を持っていない経営者とでは、どちらが生き残っていくでしょうか。

 

答えは、偏見を持っていない経営者です。

理由は簡単で、偏見を持っている経営者の方が無駄なコストを払っているからです。

 

彼らが無駄に掛けているコスト分を偏見のない経営者は別のところに投資できますから、経営に差が生じてきます。

結果として、利益に差ができ、偏見を持っている経営者が淘汰されていきます。

または、偏見があったとしても黒人を雇うようになります。

 

このようになってくると、市場における白人と黒人の需要の差が無くなり、給与に差が無くなります。

要するに、市場における人種差別が消えてなくなるということです。

 

以上がベッカーの主張になります。

しかし、現実はそう簡単にはできていません。

 

市場原理が徹底されているアメリカでさえ、雇用に関する人種差別は消えていません。

実はこれには別の要因があったんです。

 

 

2.統計データが差別を生むこともあるってマジですか!?

 

別の要因とは何か。

それは、アメリカの経済学者ケネス・アローの考える統計的差別です。

彼によれば、統計データが差別を助長しているというのです。

 

黒人に偏見のある市場では最初、白人と黒人の給与に差が生まれるということを話しました。

さっきの話では、市場原理によってこの差は無くなっていくという事でした。

でもそれは、彼らの生産性が同じだということを経営者側は知っている、という前提に基づいています。

この前提が成り立たなければ、市場から差別は消えません。

 

白人と黒人とでどちらが生産性が高いのか分からない場合には、経営者は統計データをもとに判断を下そうとします。

その統計データは黒人と白人とで需要に差のある市場で取られたデータのため、多くの黒人が白人より給料の安い仕事に就いていることを示します。

それをもとに経営者が雇うか雇わないかの判断を下すんですから、結果として差別が無くならないという事です。

 

つまり、その偏った統計データを見た経営者はこう判断するのです。

 

「統計データによると、白人の方が黒人よりも給料の高い仕事に就いている割合が高い。

ということは、おそらく白人の方が生産性が高いのだろう。

なら、黒人よりも白人を雇った方が良いに違いない」、と。

 

生産性っていうのは、要は仕事がどれだけできるかってことです。

だからって、給与の高い人の方が生産性が高い(仕事ができる)とは限らないだろっていう突っ込みがあるのはごもっとも。

でも、たとえば次のような場面を想像してみてください。

 

あなたは手作り帽子が欲しいと思っています。

この世で一品物の帽子を作ってもらうんですから、当然、長持ちする質のいいものが欲しいですよね?

 

そんなあなたの目の前には、AさんとBさんという、2人の帽子職人がいます。

2人とも帽子作りの腕は同等ですが、あなたはその情報を全く知りません。

 

帽子の制作依頼料は、Aさんは500円、Bさんは2000円です。

この時、あなたはどちらの職人の方が良い物を作ってくれると思うでしょうか?

(つまり、どちらの方が生産性が高いと予想するでしょうか?)

 

おそらくあなたは、値段の高いBさんの方がいい帽子を作ってくれると思ったんじゃないでしょうか?

Aさんよりも金額が高いのだから、Aさんよりも良い物を作ってくれるに違いない、と。

実際には、AさんとBさんとで技量に差は無いのにもかかわらず。

 

要するに、こういう事が市場においても起きるという事です。

 

これが繰り返されればどうなるかというと、黒人は白人よりも給料の低い仕事に就いているということが、彼らの実際の生産性の高さに関わらず、データとして蓄積されていきます。

すると、黒人が給料の安い仕事に就いているという事実が重なっていき、結果としてそれが黒人に対する偏見を生みだすことになるのです。

 

統計的差別の嫌な所は、偏見を持っていなくても差別をしてしまう危険性があるという事です。

 

 

3.四季のあとがき

 

今回の記事で扱った差別というのは、あくまでも「市場における差別」ということで、世にはびこる数ある差別の内の1つだけでした。

 

しかし、たった1種類の差別にもかかわらず、それが生み出されるメカニズムは思っていた以上に複雑でした。

わたしは実際そう感じましたし、この記事を読んでわたしと同じように感じた方もいらっしゃるのではないかと思います。

 

そして市場参加者の一人にすぎないわたしには、この差別をなくすというのはあまりにもスケールのでかいこと。

まず、不可能でしょう。

 

でも、もうこの差別について知ることができたんですから、少なくとも自分の周りにおいてこの手の差別をするのはやめようってことはできます。

他の記事でも似たようなことを書いたかもしれませんが、このように事実を知るってだけでもめちゃくちゃ大切です。

そして、学んだ知識を小さなことに活かすことから始めるというのは、もっともっと大切です。

 

偏見とか差別って、無意識的にやってしまっていることも多いものです。

でなければ、差別は悪いことだってみんな思ってんだから、差別が行われることはもっと少ないはずです。

現実がそうなっていないのは、善良な市民でさえ、無意識的に差別的な行動をしているからってことでしょう。

 

そうならないためにも、ちゃんと知識をつけ、自分の行動に意識を向けられるようになっていきたいですね。

 

以上、折々四季でした。

それでは、また~。

 

 

参考文献

・『やさしい行動経済学』 日本経済新聞社-編 日経ビジネス人文庫